「母屋」と呼ばれる奥の部屋はかなり傷んでいた。「院長、この家は医院より問題ですよ。大きな地震がきたらひとたまりもない。建て替えるならこっちのほうが先じゃないですか」「たしかに古くなってはいますが、この家だけは壊したくないんです」詳しくお聞きしたところによると、その家の母屋は院長の父の代に建てたものだった。しかし玄関と座敷部分だけは、明治時代に祖父が建てたものだという。七十年ほど前に父親が壊して建て直したとき、そこだけをあえて残したわけである。
(参考サイト)
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「オヤジにしてもやはり古い家に愛肴があったんでしょうね。じつを言うと私も、この玄関と和室がとくに気に入っているんです。なんといっても、じいさんが建てた家だからねえ」。医院の創設者でもあるというその祖父を、Nさんがひじょうに尊敬していることは言葉の端々にもうかがえた。なんとすばらしい話だろう。百年前にルーツを遡るその家には、Nさん一家三代の歴史が詰っていた。父親の思いだけでなく、祖父の思いまでが宿っている。だからこそ、七十歳を超えた院長が「じいさんの建てた家は壊せない」とおっしゃるのである。